映画「気球クラブ、その後」

最近引っ越した先には、邦画の品揃えのよいツタヤが近所にあって重宝している。とくに、園子温のDVDが揃っているのがうれしい。

さっそく、以前から見たかった「気球クラブ、その後」を鑑賞。

若い男女の恋愛が気球クラブを舞台に描かれている。男は女を愛しているが、いつまでも気球を諦められずにいる。一方、女も男を大事に思っているけれど、地に足を着けてともに生きてほしいと願っている。あくまで夢を追いたい男と、平凡だが落ち着いた日常を求める女、二人の思いはすれ違う。
男の膨らみつづける情熱はまさに空にぷかりと浮かぶ気球のよう。男は酔うと、夢のない人生なんてクソだとまで言い放つ。
女は地上から男の乗る気球を追いかけることしかできない。いつか地上に降りてくると信じながら。
しかし、女もいつしか待つことに疲れてしまい、離れていく。

二人が別れてから長い時間がたち、みんなが大人になってそれぞれの生活を送るようになった頃、男は交通事故で死んでしまう。それをきっかけに久しぶりに部員が集い、昔話に花を咲かせる。そのなかでこのような二人の恋愛模様が次第に明らかにされていく。

園さんは柔らかい映像と緩やかなリズムの映画にすることで、ゆっくりと袋小路に近づいていく二人の関係をより鮮明なものにしている。この緩慢な苦しさは学生時代の恋愛につきものであり、それゆえリアルな物語になっている。いまだに夢なのかどうかも定かでないものを追いつづけて社会に出ていない僕は身につまされる話であった。女の胸の痛み、男のばかげた情熱が僕に迫ってきた。

ほかにも、園さんらしく物語のディテールがいちいちリアルであった。男の死を知ったときの部員たちの反応。他人事のようにクールに受け止めるものから、号泣するものまでいるが、彼らの反応はその死に対するものというより、それを通じて自己を表現したいだけのように見える。とくに、異常な思い入れを表明しながら「あいつはおれたちよりずっと本気で生きたんだよ」と熱く語る部員なんて、今の自分のふがいなさを慰めているだけである。また、そんなバラバラな部員たちなのに、集まると妙に学生ノリで騒いで、ありもしなかった素晴らしき過去を懐かしむ。こうした古きよき日々を捏造するのは多くの人に身に覚えがあるため余計に胸にささるはず。リアルすぎる。

それでも、園さんの映画には愛がある。部員たちは男の死を知らせようと女を捜すが、連絡がとれない。だが、女は人知れず気球に穴を開けることで、男の死を悼んでいる。そして、笑いとばそうとしている。結局だめじゃんかと。彼女もまた傷ついていたのである。ただ、現実の女はここまでセンチメンタルではないだろう。
男性としての園さんの希望なのかもしれない。僕はありだと思うけどね。