園子温「冷たい熱帯魚」。

神戸では今日から公開の「冷たい熱帯魚」をさっそく見に行った。

園さんらしく予想を裏切らぬブラックユーモアと重層的なメッセージ。これだけメッセージを明確に込めてださくならないところが凄いの一言。

社本は家庭に問題を抱えながらも妻と娘と平穏に暮らしていたが、ある日、娘の悪事を救ってもらった経緯で村田という実業家と知り合う。村田は善意を装って社本を自身の悪事に引きずり込んでいく。社本は妻子をなかば人質にとられ、なしくずしで殺人の共犯にまでされてしまう。泥沼にはまっていく社本、壊れていく家族。そして、ついに社本は狂ってしまう。狂気は人間の人格をひっくり返す。臆病であった社本は凶暴になり、自分を巻き込んだ村田夫妻に復讐を果たし、最終的には自分と妻の命まで絶つ。ただ娘だけを残して。社本は狂っても自分の娘に対する愛だけは失わなかったのである。

どれだけ真面目に生きていようと、他者の悪意によって一瞬で台無しにされてしまう人生の不条理。死ぬ前に社本が娘に放つ一言にそれは凝縮されている。「いいか、生きることは痛いんだよおおおお」。陳腐だが真実。人生が無茶苦茶になった社本が叫ぶからこそ胸に迫る。

さらに、揺るがぬ愛。追い詰められていく中でも社本は家族を守ろうとした。

そして、底なしの悪意。人間はどこまでも残酷になれる。陽気に悪事に手を染め、自慢さえする村田はそれを体現している。そんな村田も幼少期に虐待を受けており、悪の連鎖が示唆されている。悪が悪を生み、われわれの近くにも、われわれの内面にも悪は遍在しているのである。

これだけディープな内容なのに重くならないのはユーモアがきいてるから。人体を解体する場面ですら、おかしみがある。笑っちゃいけないのに笑ってしまう。僕のブラックな部分と共鳴しちゃってるのかな。

園さんの映画は残酷だけどいつも愛に満ちている。好きだな。